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宮崎地方裁判所延岡支部 昭和23年(ヨ)22号 決定

申請人

旭化成工業株式会社

被申請人

旭化成延岡工場労働組合

当裁判所は申請人の申請を理由があるものと認め申請人に保証として宮崎司法事務局延岡出張所に金参拾万円を供託せしめ左記主文の通り決定する。

主文

(一)、被申請人は別紙物件目録記載の工作物並土地に立入つてはならぬ。

(二)、別紙物件目録記載の工作物並土地に対する被申請人の占有を解き之を宮崎地方裁判所延岡支部執行吏に保官せしめる。

(三)、右執行吏は申請人の請求あるときは右保管占有中に係る物件を申請人の指名するものに使用せしめるものとする。

物件目録抄

一、工場敷地 四千四百九拾八坪

一、石炭置場 四千百弐拾五坪

(第一火力発電所)

一、鉄骨鉄筋コンクリート造参階建発電工場 壱棟

建坪 千八拾八坪四勺

一、四千参百番地上右工場附属鉄筋コンクリート造煙突 参基

申請

宮崎地方延岡支部昭和二三年(ヨ)第二二号仮処分申請事件(昭和二三、九、二九申請)

一、当事者

申請人 旭化成工業株式会社

被申請人 旭化成延岡工場労働組合

二、申請の趣旨

被申請人は別紙物件目録記載の工作物並びに土地に立入つてはならぬ。

別紙物件目録記載の工作物並びに土地に対する被申請人の占有を解き之を宮崎地方裁判所延岡支部執行吏に保管せしめる。

右執行吏は申請人の請求あるときは、右保管占有中に係る物件を申請人の指名する者に使用せしめるものとする。

三、申請の理由

(一)、申請会社(以下会社と略称する)は資本金五千四百四拾万円で医薬品工業薬品、人造肥料、火薬類、人造繊維等の製造販売を目的とする株式会社であり、被申請人(以下組合と略称する)は申請会社延岡工場従業員(ダイナマイト部従業員を除く)をもつて組織する労働組合である。

昭和二十三年八月弐日組合から賃上其の他の要求があり、次いで同月弐拾四日の経営協議会を持つたが結局会社は被申請組合を含む会社従業員の全組合(旭化成労働組合連合会)に対し、壱ケ月九千五百万円(食費補助百万円を含む)の賃金を支給する事を申出で、組合連合会は壱ケ月賃金総額壱億五百万円を主張して妥結せず、同年九月拾四日組合連合会は争議宣言を発し同月拾八日から一斉に争議行為に突入する旨を発表し、且つ会社に通告した。

抑々此の連合会は所謂産別に属し、其の指導者は過激な左翼思想を有し、我国の経済組織を破壊するが如き根本理念の下に幹部独裁の傾向著しきものがあるので、組合内部においても之等指導者の統率を快く思はない者が多数居るのであるが組合は之等反対意見を強引に押し切り前述の通り争議に突入し、組合員に対し拾八日以降時間外労働の停止を命じ職場離脱等の所謂サボ戦術を併用し始めたので延岡工場の生産は急激に低下し始めた。

九月弐拾八日組合は弐拾九日午前九時第一火力発電所を完全に消火する旨争議指令を発した。

(二)、延岡工場は硫安、火薬、人絹を製造し此の為に要する莫大な電力と製造用の温水及蒸気の需要を充す為に自家用水力発電所五ケ所及火力発電所弐ケ所を有しているが其の内火力の壱ケ所の運転が停止せられると所要電力、温水及蒸気の不足を来し為に生産は部門に依つては全然休止せざるを得ない実状にある。而して右製造品の内人絹は連合軍の好意により輸入せられたる一部原料により製造し、製品は総て輸出せられ食糧輸入の見返りとなるものであり、硫安は現下食糧増産の為め必須資材であるから、延岡工場の生産停止は会社の損害は勿論だが国家としても由々しい一大事である。而して組合の指導者思想行動が前記の如く組合員多数の意見と離れている為に本年九月拾七日頃から組合の分裂が起り、今日では分裂した従業員に依つて第二組合第三組合が結成せられ其の総数約五千名を超え、第一組合の脱退者は刻々増加している。

第一火力発電所が消火せられたら直ちに之等第二第三組合によつて之を運転しようという計画を立てているのであるが之を察知した組合は発電所内に立籠り之等他組合に属する会社従業員の操業を暴力によつて妨害しようとして現在其の態勢を整え他工場から被申請組合の応援隊を繰り出してデモ行進をやつている状況に在る。

(三)、会社は組合に対し所有権に基く妨害排除の本案訴訟を提起する心算であるが、本案の判決を待つときは回復の出来ない損害を蒙る慮があるから本申請に及ぶものである。

なお組合が右の如く積極的に会社の建造物を占拠し、発電作業を妨害し、工場の機能を停止せしめるといふ行為が正当な争議行為でなく、従つて法の保護を受くべき筋合でない事は茲に論ずる必要がないと信ずる。

(疏明省略)

宮崎地方裁判所延岡支部 御中

別紙物件目録省略

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